チャン・コーのショートショート

The legend of Lady Island

( おなご島の伝説 part6)

江田島小用桟橋 17:00

海が凍った。瀬戸内海ではありえないことだった。なんでぇ?という暇もなく我々は呉への移動を考えなければならなかった。海を渡るのは危険すぎる。フェリーは航行不可能だろう。
我々は取敢えず、暖を取るために桟橋前のうどん屋に入った。おりしもNHKは夕方のニュースの時間。
「ありゃ、芳野君が喋りようる。天下無敵の天災担当アナウンサーじゃ、こりゃあ、おおごとがあったの」
ローカルだけでなく全国版のニュースで瀬戸内海の結氷を報道していた。ニュースによると呉の沿岸のみが結氷していた。そして、驚いたことに呉線が川尻と矢野で事故がありJRが不通。加えて国道も呉を挟む形で2ヶ所でトレーラー事故が発生していた。
「孤島じゃ」誰かがつぶやいた。まさに呉は陸の孤島と化していた。
「ほいじゃが、出来過ぎとるで。なんぼなんでもここまでならんで」「誰かの仕業じゃ」「誰のぉ」
「やっぱり此処ら辺のうどんは美味しいねえ」「うん、美味しいねえ」能天気な2名。
「複写機がらみかのう」「複写機のことがおおっぴらになったら困る奴がおるけどのう、ここまで大きな力がある奴じゃったらワシらひとたまりもないで。海を凍らせるんでぇ」
「伴木君の船も来れんねえ」「ほうじゃ」「まあ、これ食べたら呉に行くことを考えようで、米軍に頼むか?」「誰か米軍に知合いがおるんか」「あそこは、今は取り込み中じゃろう」
「早瀬回りで音戸経由で帰るしかないのう、車が要る」「かっぱらうか?」「配線繋いでエンジン始動できる人!」「ワシやったことあるで」「ヨッシャ、決まり」「おばさん、なんぼ? ここおいとくよ。」

我々は犯罪者になった。これで警察の追跡を受けることになった。もし、大きな力が複写機の秘密を追っているとしたら、警察と大きな力の二つに追われることになったわけだ。

呉駅前 20:00

呉に着いて我々は途方に暮れた。「このまま家に帰ったらおかしいよのう」「何も連絡もしとらん」
「親が心配するけえ、皆でどっかで合宿しょうで」「うん、ホテルで宴会しょうやあ、同窓会、同窓会」

ホテルの一室に我々はこれまでの出来事を整理するために集合した。はずだった、が、皆が手に手に酒とつまみを持参して、新幹線の車内販売よりも多いモノが揃った。
「珍味美味しいよ、あー疲れた、シャワーの後のビールは最高じゃね、ゲッポ」「ホンマホンマ」
能天気な2人を置いて、理知的な会話が始まった。
「この寒気団は明日の夕方には緩むじゃろ、JRと国道も明日の午後には復旧するらしい」
「ほいじゃあ、大きな力が動くとしたら今晩から明日の朝にかけてか」
「あの暗号めいた古文があったろう、どうも三津田のへんのことが書いてあったよのう」
「行ってみようか、夜の三津田は何年ぶりじゃろ」

すっかり出来上がった2人を抱きかかえるようにして我々はホテルの部屋を後にした。
何故、能天気コンビを連れていったか? 能天気な2人だけが文系クラスで古文が読めるのはこの2人だけだったのである。オーマイガッ!

蔵本通り 21:00

駅前のホテルから三津田までは10分程度の道のりだった。切れるような寒気が皆を襲った。
「帯広なみじゃ」「凍えた両手に息を吹きかけて、シバレタ体を暖めええるううう」歌い上げるのは能天気その一。
「このまま手掛かり無しで暗い中、行って何か解るかのう」「ほうじゃのう」
情報がない、絶対的に情報がない。
「ワシ、屋台に行ってみるわ。あそこなら此処ら辺の人がおるけぇ、何か解るかも知れん。手分けして行かんか?」
「屋台―、行こ、行こ、おでん食べよう、ラーメン食べよう」集合時間を決めて、我々は屋台に別れて入った。

堺川 屋台 22:30

「何にもないのう」「不景気な話ばっかりじゃ」「ええ話はないのう」「何処行っても同じじゃのう」
能天気軍団はおでんと日本酒で猛烈に暑くなったらしく、真赤な顔をして「ヒッヒヒ、双子が多いんじゃと、この頃。三つ子も目立つようになったんじゃと。」「そう言よったねえ、隣のオジサンの孫が検査の時は一人じゃったのに、生れてみたら双子じゃった言よったねえ」「英語で言うとツインズ、一卵性双生児はアイデンティファイドツインズ」
「ほうよ、そのアイデンが多いいんよね」「子供の頃、双子じゃったらエカッと思うたよね、一人だけ学校行ってねえ」
「パーマンでコピーロボット言うのがあったよね、あれ欲しかったあ」

パッキーン!! 能天気軍団を無視して押し黙っていた、残りのメンバーが固まった。
「呉は老齢化社会、いや日本全部が老齢化社会まっしぐらじゃ」「ほいじゃあ、子供が増えるのは」「複写機で子供をコピーして、双子や三つ子を作っとるんか」「国がからんどるんか」「複写機は強烈な三次元電子顕微鏡みたいなもんじゃろ、蛋白質の構造を調べてその情報を基にして合成してコピー人間を作る」「子供に影響があるんじゃないんか?強烈な電子線じゃろ」「実験よぉ、あんまり人口が少ないと目立つし、大都市じゃあ転勤族が多いけえ追跡調査が出来ん、呉くらいの規模が丁度ええんじゃないんか?」「三津田の下に幼稚園があったよのう」「あそこの幼稚園で追跡調査?」 皆、押し黙ってしまった。

「その蛋白質の構造の情報をどっかに送って、送った先で合成したら、瞬間移動が出来るのう」
「ハエ男の恐怖じゃ」
「ヒトの体の蛋白質の構造よりも、野菜やら肉なら解りやすい、食糧輸入の問題も解決できるのう」
「一躍、世界の食糧輸出国じゃ」「コリャー、凄いことにはまったかも知れんのう」
「ワシらが複写機のことを知ったことが、どっかに漏れたんじゃ、ワシらが呉に帰って来たことも」
「列車と道路の事故をおこして、呉を陸の孤島にして、海が凍ったのは偶然か?」
「おかしいんよの、瀬戸内海みたいに潮の流れの速い海が凍る訳がないんじゃ、ほうじゃろう、潜水艦の基地があるんで」
「伴木の船が来れんようにしたんか?」
「海も凍らせたんか、どうやってぇ」「大きな製氷機か?」「食糧を複写機で作り貯めして冷凍保存でもするんかのう」

三津田高校図書室 23:00

「複写機があるとしたらここじゃろう」「こりゃ、電気をつけるな」「ゴメン」
「これかのう、普通のコピーみたいじゃけど、古文みたいなのが書いてある」

第6話 完

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