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高田馬場駅から、歩いて数分の所に彼女の勤める「高級輸入楽器店」はある。 「数百万円もする楽器をぽんぽん買っていく客ってどんな人種なんだろ」と、ここに来るたびに思ってしまう。 狭いエレベーターが止まって綺麗なショールームが見えた。 ピアノが置いてあるのでオフィスには見えないが、楽器店に見てもらえる程の楽器も並んでいない。 おまけにかわいいい店員の一人もいない。 やたらとでかい観葉植物の影に隠れて、年齢不肖の「店長」兼「営業部長」兼「掃除婦」までこなすと豪語している彼女が座っていた。 楽器店に見えないし、客がいたのを見たことが無いのだが、これでよく潰れんですんでいるものである。 「ひさしぶりね。この間の伝説事件以来とんと顔見せなかったじゃないの?」 「なんかごぶさたしてた飲み屋に入った時に浴びせられる言葉みたいにトゲを感じるんだが・・・」 「そうよ。でも、出すもの出したら刺さらない程度のトゲに引っ込むんだけどね。」 「な・・・何を出せば?逆さに振っても鼻血も出んぞ!」 「知ってるわよ!そんなんじゃなくてぇ、あんたのそのくだらない発想力というか妄想力というか・・・」 「妄想とはひでえ!」 「人をさんざんおちょくった文章書いてる人間が偉そうなこと言わないの! さっさとこれを見んさい!」 彼女はおもむろに一枚の古文書らしきものを取り出した。 (よくもまあ、ぽんぽんと古文書だの伝説だの飛び出してくるものだが、仕方ない。他にてっとりばやく話を進める方法を知らないのである) 俺の目の前に広げられた古臭い羊皮紙には、わけのわからない文字と記号の羅列が記されていた。 「なんだ?これ?」 「どうやら楽譜らしいんだけどねえ」 「何の楽器の?」 「これ。」 彼女は、海外から持ち帰ったという楽器を取り出した。 「フルートのご先祖様、らしいんだけど、どちらかと言うと・・・笑っちゃうけど祭囃子の笛みたいよねえ」 「なんでこんなものもって帰ったんだ?」 「ちょっと面白い伝説があってねえ・・・」 「うわぁ・・また伝説かよ!他にネタは無いのか?」 「でも、ちょっと興味無い?」 「す・・少し・・」 「じゃ、考えて。これ。帰ってくるまでに、店番もお願い。蛇姉!」 店番をしながら俺は彼女が譜面だという羊皮紙を見つめていたが、何も思いうかばなかった。 勝手にコーヒーをいれて、(ここのコーヒー豆は美味い)頭をはっきりさせようとしてみたが、何杯飲んでも何も思い浮かばなかった。 羊皮紙とのにらめっこにも飽きてきたので、タバコに火をつけて煙のドーナッツを作る作業に専念しているころ彼女は帰ってきた。 「ただいま・・・っと。あら、やっぱりお客こなかった?」 「うん。一人も・・・」 「へえ・・・いずみちゃんのおみやげってこれ?」 げっ!大上姉をつれて帰ってきおった!小学校の時、卓球なんてやったことがなかった俺が、卓球台を家に持つ可憐な少女にコテンパンにされて以来、なぜか頭が上がらないのだ。こういうのを幼児期のトラウマというのだろうか・・・ コートを掛けながら吉田姉が言った。 「やっぱりだめかあ・・・」 「すんません、お役にたてませんで。ほな このへんでおいとましまっさ。」 「こぉらぁ!関西弁でごまかして逃げようとするな!」 「大上姉・・・何の話か知ってる?」 「ぜ〜んぜん!・・・でも、面白そうな匂いはしてくるわね」 というわけで、「能無し」とか「役立たず」だとか、さんざん罵られ、結局宿題だと押し付けられた俺は、その古文書と楽器を自宅まで持って帰るはめになったのであった。 自宅に持って帰っても何も思い浮かばなかった。 やばいで・・・このままじゃ「能無し」どころじゃすまん表現をされそうじゃ・・・×××くらいならまだしも、×××××などと言われたら・・・待てよ?そういや、「おなご島伝説」の騒ぎの時、関口兄がなんか万能翻訳ソフトがどうのこうの言っていたなあ・・・今日はちょうど土曜日じゃけん、チャットルームにおるはず・・・いけね!もう23時じゃねえか!ええい!はよ立ち上がらんか!CPU交換してえなあ・・・よっしゃ!おるおる! >こんばんわ、ちょっと頼みがあるんだけど。ちょっと前に話題に上がった「万能翻訳ソフト」でちょっと訳して欲しいものがあるんだけど >ええよ。FAXでもスキャナーでとったモンでもいいから送ってくれ。翻訳できたらメールすっから。 と、言うわけで、翻訳作業は人に押し付けておいて、俺はいつものようにサタデーナイトチャットで燃え尽きて寝た。 数日後、白ヤギさんからお手紙着いた。 黒ヤギさんたら食べれないので読むことにした。 メールの件名に「何?これ」と記入されていたが、本当に「何じゃこりゃあ?」と叫びたくなるチンプンカンプンの内容であった。 懺悔の踊りを舞うとき、汝、良心の呵責に耐えかね、心のうちすべて吐き出す。 懺悔の舞は二つの家族によってのみ舞うことができる。 最初に日が沈む側の家族の家長と夫人と妾が舞う。 そして次に日の昇る側の家族の家長と夫人と妾が舞い、つられて沈む家の居候が舞い始める。 続いて登る家の方の居候と、その連れ子が舞い、その順番を同じくして3度舞う。 次にすべての家族が舞を止め、再び全員が舞い、再び全員が休み、最後に沈む家の家長、夫人、妾がしめくくり、ここに懺悔の踊りは神に捧げられる。 「やっぱり”万能”ってやつは広く浅くでだめなんかのお・・・何のこっちゃ! サッパリワカリマセーン!」 ひとしきりぼやいた俺はベッドの上にひっくり返った。 「考えど考えど・・・我が暮らし・・・じっと手を見る・・・」 そのときだった!井戸の水に手を濡らしながら「わらー!」と喜び叫ぶヘレンケラーの如く俺は閃いた! 「家長は親指だ!とすると順番からいって・・・婦人が人差し指・・・妾ってのは?・・・他におるのが居候とその連れ子なら、順位的に言っても妾は3位。ならば、妾は中指で、薬指、小指の意味じゃ!つまりこれは楽器の運指を表しとるんじゃ!」 「日が沈むのと昇るのは、右手と左手だろうけれど、最初に右手だけだと音にならんはずだから、沈む側が左手じゃろうて・・・」 そうなると後は簡単。目の前に現物の楽器があるので手をあてがって見ればいいだけのこと。 運指から音を割り出してみるとこうだ。 A・E・#D・AE#D・・A・E・#D〜#C・#D#CA「よっしゃ! midiファイルに落として吉田姉に聞かせてやろう!単音じゃけえ入力はすぐじゃ!」 ♪♪♪
ここに再生ボタンが表示されていないときはこちらをクリック midiファイルにしたのはいいけど、再生しなきゃ良かったんだ。 なんせ「懺悔」を促す魔法のメロディだったんだから。 何が起こったかだって?俺にはなにも起きなかったよ。 大丈夫だ。だけど、おれの大事な一台しかないノートパソコンが・・・ほら、今も勝手に表示を続けてやがる。まるで憑かれたみたいにね。
嘘だと思うなら一遍上のプレイヤーの再生ボタンをクリックしてみな。 パソコンが懺悔するメロディが流れるから。そっから後は・・・・・ 俺の知ったこっちゃないけどね。
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