The Horror





梅雨明けのその夜、私は崖崩れの状況を確認するために母校の建つ丘に上がった。
ブルーシートで剥き出しの土砂に直接の雨水がかからないようにしてあるのが夜でも目立つ。
雲の切れ目からこぼれる月明かりに浮かび上がる青色はなんとなく不気味な感じがした。

一通り見回った頃、季節がらありえないはずの霧にあたりは包まれ、視界は遮られてしまった。
かろうじて足元だけが見える状態だったが、このあたりの地形はよく覚えているので、とりあえず車を止めている所まで引き返すことにして歩き始めたのだったが、霧はますます濃くなり、色まで付いてきたように感じた。

「青い霧って・・・?」

初めて見る青い霧に包まれて少々不安になってきたが、ブルーシートの色が霧に浮かんでいるんだろうと考え、不安感をぬぐおうとした時、私は母校の正門をくぐったことに気が付いた。
裏門側を歩いていたはずなのだが、覚えの有る石碑は正門側のものである。
そして・・・ぼんやりと浮かび上がる校舎は、 今はもう無いはずのC校舎・・・

恐怖を感じながらも私は校舎に駆け寄り、そっと壁に触ってみた。

「本物だ・・・」

ならば、左側には・・・もう一度駆け出す。

「体育館・・・」

崖側にはやっぱり・・・音楽室もある。

「母校には違いないが何故C校舎があるんだ?夢か?」

白い壁にもたれかかって私は考えたが、答えが出るわけもなかった。
止めるつもりでいた煙草に火をつけて少しでも落ち着こうとした時、少し離れたところに人影を見つけた。
ほんの少しの躊躇の後、孤独感が恐怖を増してしまうと思ったので、そばによって声をかけた。

「何してるんだい?」

人影は少年だった。

「済みません。定時制の先生ですか?落書き見逃してもらえませんか」

わりと礼儀正しかった。まあ、母校の生徒なら伝統的に裏表の使い方が巧いのだが・・・

「何で落書きを?」

少年は少し恥ずかしそうに答えた。

「明日、東京に行くんです。だから・・・思い出に落書きを残しておこうと・・・」

「何しに東京へ?」

ますます恥ずかしそうに彼は答えた。

「シンガーソングライターになるんです!」

一瞬答えに詰まった私だったが、なぜかぽろりと母校の先輩の作った歌詞の一節が口から出た。

「古ぼけた校舎の白い壁に・・・別れの歌刻み込んだ・・・・か。」

すると少年が目を輝かせて言った。

「あ、今のフレーズすごくいいです。今作ってる歌の導入部に悩んでたんだけど、使わせてください!」

「へ?」

「僕、きっとビッグになります!浜田省吾って覚えていて下さい!」


気が付くと、霧はいつのまにか消え去り、雲も流れ去っていた。
振り返って見ると・・・C校舎は・・・やはり無かった。

ロレックスだけが霧に包まれてから数時間を経過していることを告げていた。

*************
 


誰にも言わずにおこうと決心していたのに、酒は口を軽くする。
ついついこの体験を、呉ミニ会でしゃべってしまったというのが失敗だった。

「アル中でもバッジは付けられる」とか
「田中小実昌は出てこんかったんか?」だとか
「塞翁が馬」・・・?
「議員に飽きたので小説家になる気か?」などと散々言われてしまった。

酔いの回った頭で「○×△」と「口」は硬い方がいい!と確信した。
とどめに、目の据わりきった帰省中の森島兄がシメた。

「これが本当の ホラー話!」

  




※問題1.上記の伏せ字に適当と思われる文字を入れよ

  
答え 「サイフ」

ちなみに「口」は伏字ではありません「くち」です。

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