ルアー



ルアー:疑似餌 ブラックバスフィッシングで有名
陸釣り:28回生の親たちの年代ではナンパの意味



ネット通販で、ロッドとベイトリールを購入した俺は、かねてからの計画を実行した。
自宅から車で30分程の溜め池には50cmを超えるブラックバスがいるとの噂を聞いたからである。
夜も明けきらないうちに家を出て、目的地に向かった。
山の中に入り、林道を駆け登ると雑木林に囲まれた溜め池に着いた。
東の空が赤くなってきている。
カシオペアの「アサヤケ」を口ずさみながら、 俺は新品のロッドとリールを取り出した。
「バックラッシュ」を防ぐためにリールのブレーキ調整を終え、 以前偵察した時に魚影を確認した涌き水の流れ込んでいるあたりへ第一投・・・・

「ヒット!」

ロッドが思いっきりしなる!

「これはでかい!でかすぎるで!」

ドラッグを締めるが糸は出ていくばかりである。
「こんなん初めてじゃ!」

一人でわめきちらしながら、15分くらい格闘していただろうか・・・
まわりがすっかり明るくなっているのに気が付いた時、相手の姿がようやく見えた。

「鯉?それも真っ白な・・・」

相手はすでに疲れ切ってしまったのか俺のなすがままであった。
手元に引き寄せてみると、尾びれ付近にスレで掛かっている。

「スレじゃけん鯉が掛かったんか・・・」

それにしても美しい鯉であった。観賞用の鯉でもこれほど真っ白というのにお目にかかった事は無い。
なんでも、人間の目には少し青が含まれた白を「純白」として認識するそうであるが、 まさしく「純白」と言っていいほどの鯉であった。
リリースするのがもったいなくなり、車の中の洗車用バケツに入れて家まで持って帰ることにした。
自宅の池に離すと暴れる様子も無く、俺は安心してもう一寝入りした。

*************

「ああ・・これは夢だな・・・」

夢だと認識しているのに夢から覚めないのが不思議だが、 その夢の中に見覚えの無い美人が悲しそうな顔で俺を見ている。
声を掛けようとしてもしゃべれない。美人は相変わらず悲しそうな顔で俺を見つめている。
体も動かない。

「これが金縛りというものか・・・亀甲縛りより先に経験できて良かった・・・」

と、ばかな事を考えた拍子に目が覚めた。
じっとりとかいた汗を拭きながら庭の池を見て思い出した。

「そういえば夢の中の美人は白い服を着ていたな・・・」

なんか気味悪くなった俺は、着替えるとすぐに鯉を池に戻しに行った。

*************


「うわ!また夢の中に出てきおった!なんか文句あるんか!」

今度は美人も口を開いた。

「いいえ、助けて頂いたお礼に参りました」

「ほんならやっぱりお前はあの鯉・・・」

「貴方のお好みの姿での方がお話ししやすいと思いまして・・・」

「う〜ん。そりゃあ人魚だって頭が魚で首下が人間じゃったら怖いもんなあ」

「そういうお話しはちょっと苦手でして・・・」

「ああ、すまん、それで?」

「お礼にこれを差し上げます」

見ると小さなペンシルルアーだった。

「これさえあれば爆釣なのか?」

「いえ、同属が釣られていくのは見ていて辛いので・・・」

「そんならタダの飾りかい?」

「いえいえ、それではお礼になりませんから、それは陸釣りで使用して下さい。」

「ふーん。陸釣りねえ・・・大物が釣れるか?」

「え?大物がいいのですか?」

「そりゃ、釣りの醍醐味といえば大物釣り・・・」

「わかりました。それではこちらのほうを・・・」

そうして鯉の化けた美人は消え、俺は目が覚めた。
枕元には夢の中で見たルアーが一つころがっていた。
「フックの付いていないルアー?・・・陸釣りぃ?」

どうやって使うのだろうかとずっと考えた。
考えてもどうにもならないのでトイレに入ったとたん・・・

「へっへっへ・・・わかったで・・・」

そうして俺はそのルアーをある方法で身につけて街へとくりだした。

*************

人ごみの中を歩き始めると、なんとなく雰囲気が変わってきたのに着が付いた。
すれ違う姉ちゃん達がにっこりと微笑むではないか!

「こりゃ、ききめがありそうじゃわい・・・」

自信を持った俺はウインドゥショッピングをしている一人の姉ちゃんに目を付けた。
そして・・・声をかけようと傍に寄った瞬間、ウインドゥに写る異様な風景を目にしたのだった。

ガラスに映った俺の後方には、小錦関程の体格をした女・女・女・・・

無表情に近づいてくる肉の塊。

「グレムリン状態じゃ・・・」

俺は脂汗をかきながら迫り来る恐怖から逃れることだけを考えていた。

「くっそぉ!へんなルアー付けたおかげで・・・」

その時、記憶がフラッシュバック!大変な失敗を犯していたのだ。この俺は!

「大物が釣りたい」と願ったのだった。

「確かに大物だぜ!ウエイト勝負なら絶対優勝じゃあ!」

悲鳴と変わらない叫び声をあげて俺は肉の集団から脱出を図ったが、 すぐに行く手は阻まれてしまった。
唯一歩道橋への階段が空いている。
すぐさま駆け上がり、そして俺は絶望に包まれた。
もう逃げ道は無い。
車道に飛び降りて生き残れるのは映画の中のヒーローだけだ。

肉が迫ってくる。
あと・・・・10m
残り・・・・・5m
誰か助けて・・2m

そして、歩道橋は設計者の想像ををはるかに超えてしまった荷重に耐えかねて崩壊した。

崩れ行く歩道橋の大音響の中で俺は、水面を跳ねる鯉の姿を思い浮かべていた。

来年こそ絶対カープ優勝じゃけんの・・・・・


<<<戻る