時をかける少女





羽田空港は相変わらずごったがえしていた。
これでまた国際線定期便が就航始めたらどんなにごったがえすかわかんねえな・・・と考えながら、広島便のバス乗り場へと向かった。
階段を降りて右手に立ち食いうどんがある。
ここのうどんは関東の真っ黒うどんとは違い、関西風で口に合うのでよく食べている。
七味をふりかけていると、メガネを曇らせてうどんをすすりこんでいる人物に気が付いた。

「森島?」
「うん?ああ、元気?何しとるんじゃ?こんなとこで・・・」
「うどん食ってる・・・実は出張帰りなんじゃ」
「ワシは今から富良野まで行ってくる」
「スポット違うじゃないか」
「うんにゃ・・・うどん食いにきただけ・・・」

最後の一口をすすりこんで彼は言った。
「今、ちょっとおもろい事やっとんじゃ。もうちいとで完成するけんその時にはメール入れる・・・じゃあの!」

広島県人は、いくら地方生活が長くても広島弁が抜けないと言われているが、まさしくTV講座のお手本のような広島弁を残し、観光客でうっとおしいはずの旭川便へと走っていった。

「富良野かぁ・・・しもた!ラベンダーのドライフラワー頼んどきゃえかった!」
うどんの容器を返しながら俺はつぶやいた。
バスの発車を告げるアナウンスが流れ、どっと乗客が動き出す。
俺は最前列に近い側なので後のバスにすることにし、フライト前の一服にとりかった。

一週間の後、森島兄のメッセージが届いた。

「すごいもん作ったで!はよお来いや!」

CCで他にも数名の招待客があるようだ。
なんか面白そうな匂いがするので虎ノ門にある生研機構に呼び出しされたとウソをこいて出張することにした。
週末の広島発の東京便は相変わらず混んでいたし、スッチーはやはり梅の下であった。

集合場所に行ってみると、招待客は、一人除いて全員がそろっていた。
よほど普段から楽しいことに飢えているに違いない。 最遠距離記録保持者として福岡から高畑兄が駆けつけていた。

「吉田姉は仕事で少し遅れるらしいけん始めるで」

森島兄が何か色の付いたビンを持って言った。

「みんな、昔、おぼえちょるかのぉ・・・NHKで筒井康孝原作のやつで ”時をかける少女”ってのをやってたろ?」

「おお、ラベンダーの香りをかぐとタイムスリップするやつじゃろ?」

「ほーよ!あの薬と同じもんができたんじゃ!・・・いや、ちょっと違うか・・・」

「ほんまかいの?ウソじゃったら玄海灘にほおりこむど!」

「ほんまじゃ!もう、実験済みじゃ!複写機よりスゴイど!」

「でも、こんだけの人数が過去に行きでもしたら、絶対影響が出て歴史が捻じ曲がってしまう・・・」

「大丈夫!」

森島兄は断言した。

「何故なら、この薬では未来にしか行けません!」

「おおっ?なんじゃそれ?」

「実験では二時間を飛び越しました!この薬の香りの濃度によって飛び越す時間スケールが変わるみたい。」

「ほんなら早ぉやってみよおや!」

「ほうじゃ!論より証拠!」

「じゃ、蓋を開けるけど、とりあえずほんの少しで・・・」

その瞬間、我々は紫の光に包まれ・・・同じ場所に立っていた。

「おい!時計みてみい!」

「おお?10分進んどるで!」

「ばか!俺達が10分時間を飛び越したんだよ!」

森島兄がニヤリと笑って言った。

「じゃ、今度は二時間程。いくよ!」

もう一度我々は紫の光に包まれて・・・・・・・

   
*************



「おわああああっ!」 いきなり目の前に吉田姉が立っていた。

「あーびっくりした!心臓止まるかと思ったで」

「びっくりしたのはこっちよ!」

激怒モードに近いが、なんとなく気持ち悪そうに我々を見ながら吉田姉がわめき始めた。

「ちょっと遅れてきてみりゃ、大の男が空き瓶持って突っ立ってて、いくら呼んでも返事もせずに固まったまんまでニ時間近く!集団で何バカやってたのよぉ!」


*************



こうして世紀の発明、タイムスリップ薬は失敗に終わり、単に「トリップ」するだけの薬ということが判った。
ただし、効果は抜群のため、とりあえず伴木兄が防衛庁に持って帰ることになったのであった。
どうやら新型のガス弾として開発するつもりのようだ。
がっくりと肩をおとして意気消沈状態の森島兄が伴木兄を見送りながらぽつりとつぶやいた。

   
「時の欠ける症状・・・か」




<<<戻る